「水上の格闘技」ともいわれる熱い戦いが醍醐味である競艇。そんな競艇において最も高度かつ危険な技のひとつとして有名なのが、他のボートに自分のボートをぶつける「ダンプ」というテクニックです。ともすれば違反行為となってしまうリスキーな技である一方で、あえて「ダンプ」を駆使した激しいレース展開をしかけるボートレーサーも存在します。今回は、競艇初心者の方にも理解いただけるよう、「ダンプ」について詳しく解説していきます。
目次
競艇における「ダンプ」について解説!
まずは、競艇における「ダンプ」というテイクニック為について、解説していきます。
「ダンプ」とは
競艇における「ダンプ」とは、自分の先を行くボートとの間にかなりの距離(3~4艇身)あるにもかかわらず、艇首(バウ:ボートの先端のこと)を返して避けようとせずに、わざと先行艇に突っ込むようにして相手を吹き飛ばし、その反動で自分が前に出ようとするテクニックのことをいいます。
こちらの動画で、2分20秒あたりから黄色のジャケットの選手が青いジャケットの選手にぶつかりながらターンしていきます。これがダンプです。
詳しくは後述しますが、相手ボートに意図的に自分のボートをぶつけて吹き飛ばすダンプは、かなりの危険が伴う高度なテクニックです。そのため最近は「不良航法」あるいは「妨害失格」と判定されることが増えてきています。競艇ファンの間でもダンプに対する意見は賛否両論であり、後でご紹介するとおりダンプによって勝敗が決まったレースについては、現在もファンの間で議論の話題になったりします。
「ダンプ」は違反行為か否か
そもそも、相手ボートに意図的に自分のボートをぶつけるなんていう危険な行為自体、ルールで禁止されていないのか?と思われるでしょう。実際に、競艇の公式ウェブサイト「BOAT RACE」でダンプについて調べてみると、以下のとおり説明されています。
“先行艇との間に、相当の艇間距離(3~4艇身)があるにもかかわらず、艇首(バウ)をあまり返さず突っ込んで相手を飛ばし、自分はその反動で前に出てくる航走のこと。
ー競艇の公式ウェブサイト「BOAT RACE」より”
このとおり、ダンプとはあくまで航走方法のひとつに過ぎず、ダンプ=違反行為であるとは記載されていません。つまり、少なくとも現時点においてダンプそのものが禁止されているわけではない、といえるのです。
「モーターボート競走競技規定第21条」と「不良航法」
ところが先述の通り、最近はダンプが原因で「不良航法」と判定されるボートレーサーが増えてきています。これはどういうことかというと、競艇におけるレースのルールを定めている「モーターボート競走競技規定」の第21条を見ると理解ができます。
“モーターボートは、スタート後ゴールインするまでの間、他のモーターボートを追抜く場合は、そのモーターボートを左方向に見て追抜かなければならない。ただし、他のモーターボートの妨害により、左方向に見て追抜くことができなかった場合その他やむを得ない場合、又は安全な間隔がある場合は、この限りでない。”
これはつまり、先行するボートを追い抜く際には、基本的には外側から抜いていかなければいけない、というルールなのですが、重要なのは「ただし」以降の文章です。ここについてかみ砕いて読むと、つまりは他のボートにジャマされていたり、そもそも安全な間隔がある場合には内側から追い抜いてもいい、という意味になります。
先述したとおり「不良航法」とされるダンプは、この第21条にひっかかって違反とされていると考えられます。具体的に言えば、先行するボートがターンマークをギリギリで回ろうとしているところに無理に突っ込むようなダンプはダメ、ということでしょう。
「ダンプ」が「妨害失格」となる場合
他にも競艇においては、他のボートの転覆や落水を誘発するような危険な行為に対しては「妨害失格」という判定がなされます。ですから、ダンプを仕掛けた際に相手ボートが転覆または落水してしまえば、これも「妨害失格」になるわけです。
ダンプといえばこの人!原田幸哉選手について
続いて、ダンプの使い手として有名なボートレーサーである原田幸哉選手についてご紹介していきます。
原田幸哉選手とは
原田幸哉(はらだゆきや)選手は愛知県出身、1975年10月24日生まれの44歳。所属支部は長崎で、1995年6月にデビューし現役24年目のA1ランクのボートレーサーです。
後述するとおり強烈な「ダンプ」を武器に活躍しており、2002年に全日本選手権競走、2004年にグランドチャンピオン決定戦、2009年には競艇王チャレンジカップと、これまでSGレースを3度制した実績を持っています。一方で、ダンプを含めて荒っぽいレース展開を仕掛けることでも有名で、2009年12月には2度にわたるフライングにより120日もの罰休を課されB1級陥落を経験したりもしています。
原田選手の代名詞「原田ンプ」
「原田選手といえばダンプ」「原田ンプ」というフレーズが競艇界に一気に広まるきっかけとなったのは、2007年に住之江競艇場で行われた「第34回笹川賞競走(現在のボートレースオールスター)」の優勝戦です。
1週目の第1ターンマークを抜けた時点で、1号艇の瓜生正義選手と2号艇の松井繁選手が先頭争いを行う展開となり、原田選手は3番手で追いかけます。続いて第2ターンマークに差し掛かったその瞬間、原田選手が先行する松井選手にダンプをしかけます。原田選手の猛烈なダンプにより松井選手は一気に弾かれ5番手に落ち、対する原田選手は2番手にまで順位を上げます。最終的に原田選手のアシストを受ける形となった瓜生選手が1着でゴールしSG初制覇。ダンプをしかけた原田選手は2着でフィニッシュするものの、松井選手は5位に終わってしまいます。
この時、原田選手の仕掛けたダンプは絶妙なものであり、不良航走の反則はとられませんでした。しかし、松井選手が地元の選手として大きな期待を集めていたこと、そして第2ターンマークでもしダンプを食らっていなければ、松井選手は十分に優勝を狙える位置取りをしていたこと、さらには瓜生選手は原田選手と同期であり、同期のSG初制覇を意図して松井選手を潰したのでは?といった疑惑も持ち上がったことから、原田選手のダンプには多くの批判の声が集まりました。もちろん、ダンプ自体は禁止行為ではないために擁護する声も多く、結果的に原田選手は良くも悪くもこのダンプで一気に名を馳せることになったのです。
ちなみに、原田選手はなんと翌年の「第35回笹川賞競走」の準優勝戦でもダンプを仕掛けます。
このレースでは、レース終盤の最終3周目第2ターンマークにて、3番手を走っていた原田選手が先行する田村選手にダンプを実行。見事に2番手に躍り出てそのまま2着でフィニッシュするものの、前年とは違い今度は「不良航走」とジャッジされてしまい、優勝戦進出を逃す結果となってしまいました。
まとめ
今回は、競艇において最も高度かつ危険な技のひとつとして有名な「ダンプ」というテクニックについて解説してきました。ダンプはあえて先行するボートに自分のボートをぶつけるために、高度な操艇技術が求められます。うまく使えば大きな効果を発揮する一方で、ぶつけられたボートは一気に順位を落としてしまう可能性があること、さらには転覆や落水の危険性もあることなどから、ボートレーサー及び競艇ファンの間では賛否両論がある技にもなっています。最近はダンプも含めて荒っぽい技をしかけるボートレーサーは少なくなっています。それでも、いまだにダンプを駆使するボートレーサーも存在するので、気になる方はそういったボートレーサーのレースに特に注目してみましょう。